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【ファイナル】1997年 ブルズVSジャズ 全6試合

第1戦

ジョーダン率いるブルズの最後にして最大のライバルとの対決は第1戦から激戦となったが、スコッティ・ピッペンがつま先に故障を抱えながらも活躍し、ブルズに先勝をもたらした。
接戦となった第1戦は、第4Qに79-78とジャズが僅か1点のリードを守っていたが、ピッペンがジャズのアントワン・カーのジャンプショットをブロックすると、自らロン・ハーパーのアシストから3Pシュートを決め、ブルズが逆転を果たす。しかしジャズも粘りを見せ、最後まで息の詰まる競り合った展開が続く中、82-82の同点で迎えた残り9秒、ファウルを貰ったカール・マローンが2本のフリースローを得た。ここで百戦錬磨のベテラン同士らしい心理戦が見られた。このプレッシャーの掛かる場面でピッペンが、"メイルマン"の愛称で知られるマローンにこう囁きかけた。
「Just remember, The mail man doesn't deliver on Sundays, Karl.」
「郵便配達人は日曜日には配達しない。」ユナイテッド・センターで行われたファイナル第1戦の日付は1997年6月1日、この日は日曜日だった。マローンはフリースローを決して苦手としてはいなかったが、この重要なフリースローを2本とも外した。そして試合は残り7.5秒、ブルズのスローインから再開された。ボールを受け取るのはもちろんマイケル・ジョーダン。スリーポイントラインからブライオン・ラッセルとの1on1を開始したジョーダンは、鋭いドライブから一瞬ラッセルのマークを外すと、ゴールまで20フィートの位置でジャンプショットを放った。試合終了のブザーが鳴ると共にボールは見事にバスケットを突き抜け、ブルズが84-82で重要な第1戦を劇的な勝利で飾った。
ジョーダンは31得点8アシスト、ピッペンは27得点9リバウンド4ブロック、マローンに対抗意識を剥き出しにしているデニス・ロッドマン(ロドマン)は14リバウンドを記録した。ジャズはマローンが23得点15リバウンド、ジョン・ストックトンが16得点12アシスト7ターンオーバーだった。ジャズにとって試合終盤のマローンのフリースロー失敗は痛恨のミスとなり、またピッペンがマローンに囁きかけた言葉は、NBAの中でも特に有名なトラッシュ・トークとなった。

第2戦

第1戦に引き続き第2戦も序盤から両チームは競り合ったが、第2Qに入るとマローン&ストックトンに並ぶ当時リーグ最高峰のデュオであるジョーダン&ピッペンがジャズに襲い掛かる。ジョーダンのパスからピッペンが派手なワンハンド・ダンクを決めるなど、ブルズが12連続得点を記録する猛攻を見せ、一気にジャズを引き離した。ジャズは前半31得点しかあげられず、危うくファイナルの前半最低記録を更新するところだった。試合は終始ブルズペースで進み、97-85でブルズが2連勝を飾った。
ブルズはジョーダンが38得点13リバウンド9アシストと大活躍し、またロッドマンが3Pシュートを決めるという珍しい場面も見られた。ジャズは第1戦で痛恨のフリースローミスを喫したマローンが不振に陥り、この日は20得点13リバウンドだったがFG6/20という内容だった。ほか、ジェフ・ホーナセックは19得点、ストックトンは14得点7アシストだった。


第3戦

2連勝を飾って意気揚々とソルトレイクシティのデルタ・センターに乗り込んだブルズを待っていたのは、熱狂的として知られるジャズファンだった。彼らは会場を大声援と花火で埋め尽くし、ブルズのメンバーはその騒々しさに耳を塞いでしまうほどだった。
ホームでの試合でジャズは水を得た魚のようにブルズを蹴散らし、終始圧倒した。一時点差は20点以上まで開き、必死で巻き返しを試みるブルズはピッペンがファイナル・タイ記録となる7本の3Pシュートを決め、ジョーダンは起死回生を狙って豪快なアリウープ・ダンクを決めるも、ブルズの活躍は全て客席から地鳴りのように鳴り響くブーイングの嵐によって掻き消された。試合は104-93でジャズが勝利し、ファイナル初勝利を飾った。
ジャズは第1戦、第2戦とエースの役割を果たせなかったマローンが37得点12リバウンドの大活躍を見せ、ストックトンは17得点12アシストを記録。またマローンのバックアップであるグレッグ・フォスターが17得点をあげ、チームの勝利に貢献した。ブルズはピッペンが27得点、ジョーダンが26得点をあげ、伏兵ブライアン・ウィリアムズが16得点を記録したが、他のメンバーが振るわなかった。

第4戦

第3戦の不振を受けて、ブルズのフィル・ジャクソンHCがまず最初に打った対策は、騒々しいジャズファンの声援を遮るための耳栓だった。

第4戦はベテラン同士らしい両チームによる、激しさと堅実さが発揮されたロースコアゲームとなった。序盤から競り合いとなったが僅かにジャズペースで進み、ジャズがリードを奪ってはその度にブルズが同点に追いつくという展開が続き、第4Qを56-56の同点で迎えた。第4Qに入って最初に勢いづいたのはブルズだった。ジョーダンの連続ダンクなどで71-66とジャズを突き放しに掛かり、ブルズがシリーズ3勝目を飾るかに見えたが、ここでジャズのジョン・ストックトンが立ちはだかる。まずはストックトンが3Pシュートで応酬。ブルズもジョーダンのジャンプショットで73-69とするが、さらなるリードを狙ったジョーダンのシュートをストックトンが見事にスティールし、そのままコートを走りぬけ、ジョーダンからファウルを引き出すなどして、計4本のフリースローを獲得、うち3本を決めた。73-72と点差は僅かに1点。再度の突き放しを試みるジョーダンだがジャンプショットをミス。リバウンドを確保したストックトンは、すでに走り出していた盟友マローンに超ロングパスを送り、"メイルマン"はしっかりとボールをブルズゴールに送り届けた。残り44秒、ついにジャズが74-72と逆転を果たした。窮地に陥ったブルズは、ファウルゲームを仕掛けた。標的とされたのは第1戦で重要なフリースローを外したマローンだったが、マローンはこの屈辱的な扱いにも冷静にフリースロー2本を決め、最後はブライオン・ラッセルの豪快なスラムダンクが決まり、ジャズが78-73で2連敗から2連勝を飾った。
ジャズはマローンが23得点10リバウンド、ストックトンが17得点12アシスト4スティールを記録。ブルズはジョーダンが22得点、ピッペンが16得点12リバウンドを記録した。お互い80得点を越えないロースコアゲームとなり、ブルズが記録した73得点はブルズのファイナル最低記録である。

第5戦"Ful Game"

2連敗という緊急事態のなか、ブルズを更なる災難が襲った。絶対エースのマイケル・ジョーダンが、突如の体調不良に襲われたのである。

試合が開始するちょうど24時間前の6月10日、ジョーダンは不快感と異常な汗の中で目覚めた。ベッドから起き上がるのにも苦労したジョーダンは、医者に食中毒と診断される。トレーナーはジョーダンがプレイするのは無理だと判断したが、2勝2敗で迎えた第5戦はその結果がそのまま優勝の行方に直結する極めて重要な試合であり、ブルズにとってジョーダン抜きで戦うことなど考えられず、またジョーダンにとってもこの重要な試合をベンチから眺めるなどありえないことだった。試合当日の6月11日、ジョーダンはホテルでデルタ・センターに間に合うぎりぎりの午後3時にようやくベッドから起き上がり、第5戦に強行出場した。
しかしジョーダンの憔悴は傍から見ても明らかであり、第1Qのブルズはジャズの猛攻の成すがままとなった。棒立ちのジョーダンの側でマローンとストックトンがブルズに襲い掛かり、一時ジャズは16点のリードを奪った。しかし第2Qに入ると半病人のジョーダンが静かに反撃を開始する。その動きにいつものスピードや俊敏さは見られなかったが、彼の放つジャンプショットが次々と決まり、第2Qだけで17得点を記録。ブルズは第2Qだけで33得点をあげ、一時は逆転。すぐにリードを奪い返されるも、前半を53-49の4点ビハインドで終えた。第3Qに入るとジョーダンは再び棒立ちとなるが、その間をピッペンとルーク・ロングリーが懸命にブルズを支え、一進一退の攻防が繰り広げられた。そして72-67のジャズ5点リードで迎えた第4Q、再びジョーダンが目覚め、ジョーダンはこのクォーターだけで15得点を記録し、ブルズが連続10得点の猛攻を見せる。そして85-84のブルズ1点ビハインドで残り1分を切り、ジョーダンがフリースロー2本を獲得。1本目を決めて同点に追いつくが、2本目はミス。しかしジョーダンは自らオフェンスリバウンドを掴み取り、そして残り25秒には逆転となる3Pシュートを決めた。ジャズはすぐさまストックトンのアシストからグレッグ・オスタータグがダンクを決めて88-87とするも、ボールを持ったピッペンについたマローンはすでに5つのファウルを犯しており、マローンはファウルゲームに行くのに躊躇してしまった。結果、ロングリーのダンクで再び90-87と突き放される羽目となり、スローンHCはたまらずタイムアウトを請求。その瞬間、ようやく緊張状態から解き放たれたジョーダンは、ピッペンの腕の中で崩れ落ち、ピッペンに抱えられながら辛うじてベンチに戻ることができた。試合はブルズが手堅くファウルゲームにいき、90-88でブルズが勝利、優勝に向けて王手を掛けた。
ジョーダンは44分間プレイし、38得点7リバウンド5アシスト3スティールを記録。ピッペンは17得点10リバウンド、ロングリーは12得点を記録した。ジャズはマローンが19得点7リバウンド、ストックトンが13得点5アシストだった。
このファイナル第5戦はジョーダンが体調不良の中でもなお最高のプレイをした試合として伝説化されている。当時ジョーダンの体調不良の原因はインフルエンザ(Ful)とも言われていたため、しばしば"Ful Game"と呼ばれている。

第6戦 [編集]

後が無くなったジャズは序盤から仕掛け、前半を44-37の7点リードで折り返した。ブルズは前半FG成功率は30%台前半にまで落ち込み、シュートに苦しんだが、しかし後半に入ると、食中毒から立ち直ったジョーダンが浮き足立っていたチームを立ち直らせ、さらに第4Q序盤にジャド・ブジュラーが決めた3Pシュートがブルズに流れを引き寄せた。ブシュラーはこの日自身の3Pシュートに繋げたオフェンスリバウンド1本と、そしてスティーブ・カーの3Pシュートを引き出した1アシストの、出場時間8分、FG試打数1本、3得点1アシスト1リバウンドという成績だったが、彼のこのささやかな数字がブルズに勢いをもたらしたことは確かだった。ブルズは連続10得点を決め、9点ビハインドから一気に逆転を果たしたのである。しかしジャズも黙ってはおらず、残り28秒にはブライオン・ラッセルが3Pシュートを決め、86-86の同点となった。
この日の影の主役はジャズのシャンドン・アンダーソンだった。もっとも今回の場合は不名誉な主役であり、彼はこの試合簡単なレイアップを次々と外しており、この試合はアンダーソンの大失敗ショーとして記憶されることになった。そして同点で迎えた試合終盤。ストックトンからのパスを受けたアンダーソンはボード裏からレイアップを試みるも、またもや失敗、決勝点を決めたヒーローとなるチャンスを逃してしまった。もっともこの時、ピッペンが思い切りリムを掴んでゴールを揺らしていたため、スローンHCは反則ではないかと審判に猛抗議をしたが、彼の主張は通らなかった。
そしてタイムアウトを挟んで、ブルズボールで迎えた残り28秒。舞台は整った。ブルズファンで埋め尽くされたアリーナの誰もが予想するのはジョーダンによる劇的な幕切れであり、当然ジャズが最も警戒するのはジョーダンだった。時間をたっぷり使ってオフェンスを組み立てたブルズは、やはりジョーダンにボールを持たせた。ジョーダンをマークするラッセルに、さらにストックトンがすかさずダブルチームに加わった。それでもなおジョーダンは強引にシュートに向かい、2人の隙間を縫うように上体を傾けたが、彼が最後に選択したのはパスだった。パスを受け取ったのはスティーブ・カー。カーが放った17フィートのジャンプショットは、見事にバスケットに収まった。

1993年のファイナル第6戦で、ジョン・パクソンが決めた決勝3Pシュートと今回とで決定的に違ったのは、パクソンがホーレス・グラントからパスを受けたのに対し、カーがパスを受けたのはジョーダンからという点だった。これまで数々の劇的なラストショットを決め、本人もチームのラストショットを自ら放つことにこだわりを持っていたが、今回ジョーダンはカーにラストショットを託したのである。この以前のタイムアウトで、カーはジョーダンに「準備はできている」と語りかけ、ジョーダンもそれに対して頷いて応えていた。

残り5秒でスコアは88-86。次のジャズのオフェンスを阻止すればブルズの優勝が決まるが、ラッセルからアンダーソンへのインバウンドパスをピッペンがスティール。ピッペンはルーズボールに飛び込みながらトニー・クーコッチにパスを送り、そしてクーコッチがブルズ5回目の優勝を告げる祝砲となるダンクを決め、コート内には興奮したブルズの選手とスタッフ、それを追いかけるマスコミ陣で溢れた。実はクーコッチが決めたダンクはブザービーターではなく、試合はまだ1秒弱残っていたが、アリーナの天井からは紙吹雪が舞い落ち始め、ジャズの選手も足早にコートを去ってしまったため、正式な試合終了は有耶無耶のまま場内はブルズの優勝を祝うためのセレモニーの場へと移っていった。
ジョーダンは体調不良だろうと万全だろうと変わらずこの日も39得点11リバウンドを記録。ピッペンは23得点、ロッドマンは11リバウンドを記録したほか、ベンチ陣ではクーコッチとカーがそれぞれ9得点をあげた。ジャズはマローンが21得点7リバウンド、ホーナセックが18得点、ラッセルが17得点、ストックトンが13得点5アシストを記録した。

ファイナルMVPにはシリーズ平均32.3得点を記録したマイケル・ジョーダンが選ばれ、これで彼は5回目の受賞となった。ジョーダンとブルズには当然のように2度目の三連覇(スリーピート)に期待が掛かるが、しかしブルズのメンバーも、そして周囲も、ブルズがリーグの頂点に君臨し続けるのは、次のシーズンが最後ではないかと予感し始めていた。ジョーダンもすでに33歳でいつキャリア末期を迎えてもおかしくない年齢であり、そしてピッペンは契約問題に絡んだチームフロントの確執がいよいよ表面化し始めてた。90年代を支配し、世界中に空前のNBAブームを巻き起こしたブルズも、いよいよ"ラストダンス"と呼ばれる最後の輝きを放つ時を迎える。
悲願のファイナル進出を果たしながら、惜しくも優勝には届かなかったジャズは、ファイナル初経験となったマローンとストックトン共にファイナルではやや精彩を欠いた。ジョーダンが毎回のようにファイナルではグレードアップするのに対し、レギュラーシーズンは平均27.4得点の成績だったマローンはファイナル平均23.8得点、ストックトンもレギュラーシーズン10.5アシストだったのが、ファイナルは8.8アシストと数字を落とした。しかし2人とジャズはチャンピオンリング獲得の夢を諦めず、翌年も優勝を掛けて同じ舞台でブルズと激突することになる。
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